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2025年版:日本企業によるIT業界のM&A最新動向

2025年版:日本企業によるIT業界のM&A動向

2025年、日本のIT企業を中心としたM&A(合併・買収)は、過去10年で最も活発な年のひとつとなっている。背景には、慢性的なエンジニア不足、生成AIの普及、デジタルトランスフォーメーション(DX)需要の高まり、そして「親子上場解消」などコーポレートガバナンス改革の影響がある。本稿では、2025年時点で注目されている日本企業によるM&Aの潮流を、実例とともに分析する。


国内M&Aの加速:「親子上場解消」と「事業集中」

最大の話題のひとつは、NTTによるNTTデータの完全子会社化である。NTTは2025年5月、NTTデータの残りの株式を約2.37兆円で取得し、完全子会社化を完了した。この動きは、グループ再編と事業の一体運営を目指すものであり、特に生成AI・セキュリティ事業のスピードある展開を可能にする。親子上場解消の観点からも象徴的な事例であり、今後同様の再編が大企業グループを中心に広がると予想される。

また、富士通やNECも、非中核事業の切り離しやソフトウェア会社の再編を加速。2024年にはNECが子会社のNECネッツエスアイをTOB(株式公開買付)で再統合し、5G・クラウドインフラへの集中を強めている。こうした再編は、グループのシナジー強化だけでなく、事業の専門性・収益性向上にもつながる。


中堅IT企業の台頭と買収拡大:ロールアップ戦略の活用

上場中堅IT企業による積極的な買収も目立つ。代表例は「SHIFT」である。SHIFTは2025年初頭までに、テスト・品質保証領域にとどまらず、SAP関連やセキュリティベンダー、クラウドSIerなど複数の中小企業を買収し、グループ企業数は60社を超えた。彼らの「ロールアップ戦略」は、ターゲット企業のPMI(統合)後に営業・採用・人材育成機能を標準化し、再成長させるという独自のモデルで、業界内で注目を集めている。

同様に、ITホールディングス系の「TIS」や「SCSK」も、スタートアップやニッチ分野の技術会社を買収し、グループ機能を強化。これらの企業は、地方の有力SIerや中堅Web開発企業など、従来は買収対象とされにくかったプレイヤーにも着目し、組織のすそ野を広げている。


海外企業への買収攻勢:ASEAN・インドを中心に

近年、日本企業による海外IT企業へのM&Aも加速している。特に目立つのが、ASEANや南アジア(インド、バングラデシュなど)の成長企業への出資だ。

2025年初頭、ハイブリッドテクノロジーズ(東京)は、ベトナムのITコンサル会社NGS Consultingの40%の株式を取得し、子会社化した。この背景には、優秀なエンジニアを安定確保しながら、現地でのオフショア拠点を拡充する狙いがある。ベトナムは人的リソースの確保と賃金競争力で注目されており、同様の動きはサイバーエージェントやLTS、ユニリタなどでも見られる。

また、大手では日立製作所が2024年に買収した米グローバルロジックに続き、インドのクラウド企業を傘下に収め、Lumada事業のグローバル強化を図っている。日本企業が“買われる側”から“買う側”へと変わってきているのは、2020年代後半の明確なトレンドである。


技術分野別:生成AI、セキュリティ、ローコードが主戦場に

技術分野別に見ると、買収が集中しているのは以下の3領域である:

  1. 生成AI/LLM系ベンチャー
     国内では、PKSHA TechnologyやAI insideなど、AIアルゴリズムや自然言語処理技術を持つ企業が相次いでスタートアップや大学発ベンチャーに出資・買収を行っている。

  2. サイバーセキュリティ企業
     トレンドマイクロをはじめ、日本企業の多くがセキュリティ強化を最重要課題に掲げており、中小のSOC運用会社や脆弱性診断企業をグループ化する動きが進行中。

  3. ローコード/ノーコード系プラットフォーム開発企業
     中小企業のDX需要に応える形で、国産の業務自動化ツール(例:Kintone連携系ベンチャーなど)をターゲットとする買収が相次いでいる。


課題と今後の展望

日本企業によるM&Aは確実に増加傾向にあるが、買収後の統合(PMI)に課題を抱えるケースも多い。特に文化の違いや人材の流出、経営者交代による混乱などが顕在化しやすい。中長期的には、財務だけでなく「カルチャーフィット」を重視した買収戦略、インセンティブ設計、柔軟な働き方の導入が成功のカギとなる。

今後、経済安全保障政策や半導体戦略の一環として、IT業界に対する政府支援もさらに広がる見込みであり、M&Aは単なる「成長手段」ではなく、国策レベルでの「産業再編ツール」としての性格を帯び始めている。


総括

2025年、日本企業によるIT業界のM&Aは質・量ともに新たなステージに突入している。国内の再編、海外への進出、技術分野での競争力強化と、あらゆる角度から再構築が進む中、今後もこの動きは拡大し続けるだろう。変革の時代において、M&Aはもはや「選択肢」ではなく、「前提」になりつつある。

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